冬になると夜空が澄む。澄んだ夜空に星が鮮やかに輝く。
年を通して、星空か最も美しく魅力的な手節、星空撮影のチャンス到来だ、冬の夜窄を飾る星座たちも、文字通り大スターが登場する、その筆頭は、オリオンであろう、見事な大星座である、その右にV字型をしたおうし座、史に右に少し離れてプレアデス星団(すばる)。オリオンの左下には、全天1の1等星の12倍の明るさを持つ、おおいぬ座のシリウスが輝いている。
この素晴らしい星空を撮影するには、巾街地の明かりを避け、美ヶ原鳥原や高ボッチ高原、乗鞍高原といった高みへ登って行く。
2001年11月18日深夜、標鳥1600mの鳥ボッチ高原へ向かい、車を走らせていた。この夜は、しし座流星群が夜空を乱舞するかもしれないという情報に心を躍らせていた。思い返せばその2年前、1999年にも仲間だちとしし座流星群を撮りに美ヶ原へ登ったことがあった。笑い話だが、その時、時折舞う雪粒が下から登ってくる車のライトに照らされて光るのを流星雨と思い込み、みんなで「スゴイ、スゴイ!」と騒いだことがあった。
高ボッチ高原に着いてみると霧が出ていたため、鉢伏山方面へ移動すると、クリアな夜空が広がっていた。小高い丘に登りスタンバイ。既にチラホラと流星が飛び始めている。広角レンズでしし座方面をフレーミングし、撮影を開始した。流星のピークは午前1時過ぎと聞いていたが、しし座方向に限らず、全天のあちらこちらでかなりの数が飛んでいる。眼下には、松本の夜景が広がり、その背後にかすかに雪の北アルプス連峰も見て取れた。
流星は夜景の上やアルプスの真上にまで突っ込んでいくかのように閃光を残しては消えてゆく。現実の世界とは思えない、初めての不思議な光景の中で、僕はかなり興奮していた。突然、霧が巻き、全天の星はライトが消えたかのように消え失せてしまった。
一時間経っても霧は動かない。もうダメかなと、半ば諦めかけた頃、再びうっすらと星が見え始めた。待っている問に星座が動いていた。オリオンが南の空高く輝いている。ふと「オリオンと流星を撮りたい」との思いが強烈に湧き上がった。再びクリアになった夜空に、50mmレンズでオリオンをフレーミングした。果たして、オリオンを流星が掠めてくれるのか。シャッタースピードを30秒に設定し、シャッターを切り続けた。そう簡単には撮らせてはくれない。
2本目のフィルムがそろそろ終わりに近づいた頃、目の醒めるような閃光が、左上方からオリオンの上を通過した。はじめて天の川(銀河)を認識したのは、美ヶ原で星を撮った時であった、その時、白い雲だと見えたものが、実は銀河だつたと気付いた驚きは大きかった。
我々の住む太陽系のある銀河系は、直径10万光年の球なのだという。この中に、太陽も含め、約2000億個の恒星がある。いちばん近いアンドロメダ銀河は、240万光年の距離にあり、宇宙には数限りない銀河群・銀河団が存在し、膨張し続けているという。想像を絶するスケールと僕の理解力ではどうにもならない宇宙の不思議に、ただ驚愕する他はない。でも、満天の星空の下でシャッターを切っていると、フィルムの1コマに宇宙の彼方から時空を超えて確かな光が届いているのを実感する、その密かな光は、僕の心の奥底まで入り込んで、もう1つの宇宙が満天の星に輝き出す。